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『旅とあいつとお姫さま』と「エマオ」と「いじめ対策」

座・高円寺の『旅とあいつとお姫さま』を観ました。
再演を重ねているそうですが、噂通りの素晴らしい舞台でした。
観ながら、「かぐや姫」と、「トゥーランドット」と、ヨハネの首を抱くサロメと、そして何よりも、カラヴァッジョやレンブラントの「エマオの晩餐」で有名な、エマオへ向かう弟子たちとともに旅をしたイエスの話を思い出し、ジーンとしました……と書くと、なんだか紋切り型のお芝居のように思われそうですが、とんでもない!
KONTAさんの音楽が豊かでセンス良く、楠原竜也さん、辻田暁さんという2人のダンサーの動きが美しく、かつ、目にもとまらぬ速さなので、はっとさせられっ放し。
退屈する暇なんて、1秒もありませんでした。
子ども向けとカテゴライズされているようですが、むしろ大人が楽しめる作品かもしれません。

あるいは、マセた子ども、否、何らかの事情でマセざるをえなかった子どもが、胸の奥深いところで納得するタイプの作品かも。
魔界や死者の世界といった、目に見えない世界が、当たり前のことのように出てくるからです。
子どもの将来・その3で、

「「物事の本質」を認識できるようになるためには、小さい頃から、目に見えないもの、抽象的なものの認識能力を上げておくといいのかな。
神社にお参りしたら、「この中には神様がいるんだよ」とか、お墓参りしたら、「ここにはあなたのご先祖様が眠っているんだよ」とか」

と書きましたが、「目に見えないもの、抽象的なものの認識能力を上げ」るには、神様の話や「魔界や死者の世界といった、目に見えない世界」に親しませるのが手っ取り早いと思います。
もっと身も蓋もない言い方をすると、うちでは「いじめ対策」として、神話や昔話を読ませています。
この世の不条理というか理不尽というか、いろんなことがある、ということを肌で感じて、危険察知能力や危険回避能力、危険やり過ごし能力を高めてほしいからです。
その点、昔話や神話は「いろんなこと」の基本型であり、世に出回っているいろんな本や絵本の原型ですから、そこを押さえるのが確実だと考えました。

【関連エントリ】
いじめと哲学
子どもにキリスト教を学ばせる理由
サンタクロースで知力アップ!
なぜサンタクロースはクリスマスにやってくる?

それから『旅とあいつとお姫さま』には、さまざまな『サロメ』で描かれるようなエロスの愛も出てきますから、その点でも、マセた子のハートをわしづかみにするだろうと思います。

大学3年になって本郷キャンパスに通いはじめた頃、同じ学年の文学部の女子学生から、早朝の丸ノ内線の中で、
「あなたの愛は、アガペーの愛? それとも、エロスの愛?」
と、唐突に聞かれて、のけぞったことを、観ていて思い出しました。
そーいう危ない質問には正面から答えず、適当にお茶を濁すのが(官僚候補生たる)法学部生として正しい態度だったのかもしれませんが、官僚向きにできていなかった私は、「法学部だから、アガペーとかエロスとか知らないだろう、と思われているとしたら悔しいな」とムキになり、「アガペーの愛と言えば、やっぱ神の愛でしょ、私はしがない人間だし……」と3秒くらい真剣に考えた結果、小さな声で、
「え、エロスの、あ、愛……かな?」
と答えました。
彼女は、
「私は、エロスの愛よ」
と、高らかに宣言していました。
そのときの車内の微妙な空気を、いまだに忘れることができません。
お名前を忘れてしまったけれど、今、どこでどうしておられるかしら、お元気かしら?

なお、「エマオへ向かう弟子たちとともに旅をしたイエスの話」については、銀座教会サイト「銀座の鐘」の「エマオ途上のキリスト」(2002年3月31日 横浜共立学園理事長 小林 宏)が示唆に富みます。
キリスト教の説教に慣れていない人向けにツボを解説しておきますと、『旅とあいつとお姫さま』の主人公である「若者」が間抜けなのは、(1)(2)に書かれている、弟子たちの目が遮られて目の前のイエスに気付かないことに対応すると思われます。
「旅仲間」の正体は、(6)で引用されている「わたしの兄弟であるこの最も小さい者にしたのは、わたしにしてくれたことである」(マタイ25章40節)やマザー・テレサの言葉につながると感じます。

『旅とあいつとお姫さま』はテレーサ・ルドヴィコというイタリアの人がつくったお芝居です。
私は、西洋のお芝居や小説は、基本的に聖書のリライトや再解釈だと考えています(ラクロの『危険な関係』を除く)。
というか、そういう感想を抱くことがあまりに多いんです。
例えば、ドストエフスキーの『罪と罰』、スティーブン・キングの『グリーンマイル』……そしてもちろん、ベケットの『ゴドーを待ちながら』も。

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プロフィール

渡辺リエラ
1969年東京生まれ。1988年東京大学文科1類入学。1992年東京大学法学部卒業。出版社勤務、専業主婦を経て、現在、別名義にて大学講師などとして活動中。2007年7月第1子「みーちゃん」誕生。
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