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オススメの漢字の本3冊

入学準備、どうしてます?
武田双雲『しょぼん ひらがな』の凄さ

で書いたように、基本的に私は、特別な入学準備は必要ないと考えています。
身の回りのことができて、座って先生の話を聴くことができれば、それで十分ではないかと思いますが、好奇心旺盛な子の場合、漢字に興味をもって、
「これ、なんてよむの?」
と聞いてきたりもします。
そのとき、
「そんなことしらなくていいの」
「あとでね」
なんて、言わないであげてくださいね。
問題となっている漢字が「猥褻」「絞首刑」のように、まだ子どもに教えたくないものだったら、たしかに、
「○○ちゃんが、もうすこしおおきくなったらね」
と言って、優しくスルーするほうがいいかもしれませんけど、そうじゃなければ、どんどん読み方や意味を教えていいと思います。
すると、そのうち、
「この字は××って読むんでしょ?」
などと、過去のやり取りや大人同士の会話から推測するようになって、大人はびっくりするわけですな。

もっとも、びっくりしたいがために、四六時中待機するわけにはいかないし、親も漢字の専門家じゃないので、漢字の本が必要になるわけです。
うちが今持っている漢字の本は、
『書本 漢字』(武田双雲著、池田書店)
『下村式小学漢字学習辞典 第5版』(下村昇編著、偕成社)
『白川静博士の漢字の世界へ――小学校学習漢字解説本』(福井県教育委員会編・発行、平凡社発売)
の3冊です。
1つずつ、ご紹介していきますね。

『書本 漢字』は書家・武田双雲さんの『しょぼん ひらがな』の姉妹本。

【追記】2014.9.8
『しょぼん ひらがな』については、補足エントリそれでも武田双雲『しょぼん ひらがな』を勧める理由をあわせてお読みいただければ幸いです。

1年生で習う47の漢字と、双雲さんが選んだ9字が掲載されています。
アートディレクションは、『しょぼん ひらがな』と同じく、佐藤可士和さん。
構成も基本的に同じ。
見開きの右ページに、漢字1文字が楷書体で書かれていますので、これをお手本に練習をすればよい。
大人でも間違えやすい「とめる」「はねる」「はらう」かが、印刷した字よりわかりやすいのも大きなメリットだと思います。
書き順も、パラパラマンガを縦一列に並べたよう、と言ったら伝わるでしょうか、一目瞭然でわかりやすいと思います。
左ページは、右ページの字の「創作書」と、それに関連した印刷文(自由詩)。
楷書も創作書も、とにかく美しいのひとこと。
文字って、まず第一に、物事を伝える手段なわけですけど、それだけではないですよね。
書道が芸術にまで高められていることに象徴されるように、文字は美しく、人々を魅了する存在
さらに、創作書について言えば、美しいだけでなく、楽しい
ページをめくるとき、次はどんな姿をした字なんだろうと、ワクワクするほど。
その辺りのニュアンスを、子どもに伝えたいんですよね。

『下村式小学漢字学習辞典 第5版』は文字通り、小学校6年間で学習する1006字(教育漢字)を学ぶための辞典です。

小学生向けの漢字辞典はいくつかありますが、見比べて、これを選びました。
決め手は、色使いがケバケバしくなかったことかなあ。
文字のフォントや大きさも、読みやすいと感じましたし。
一般的な「音訓さくいん」「総画さくいん」「部首さくいん」に加えて、「漢字ファミリー分類表」や「下村式漢字早繰りさくいん」がある点も好感度が高かったです。
どの索引が使いやすいかは人それぞれ、ケースバイケースだと思いますが、索引は入り口なわけで、入り口は多ければ多いほどいいと思ったからです。
ちなみに、「漢字ファミリー分類表」は、人体、動物、住居などのグループに分けているもの。
このファミリーごとに漢字が並んでいるため、例えば「顔」と「額」が見開きで隣り合っています。
それだと、まったく無関係の字が並んでいる辞典より、
「ついでに隣りのページも読もう」
となりやすいんじゃないでしょうか。
「下村式漢字早繰りさくいん」は私のお気に入りで、漢字を左右、上下、その他の3つの型に分け、それに書き始めの第1画目の4パターンを組み合わせて、計12グループに分けたもの。
これだったら、書き順の見当がつくくらいの子どもであれば、絶対に目当ての漢字にたどり着くはず。
大人にとっても、数えたりする手間が省けるので、ラクちんです。
あと、漢字の成り立ちについての「かんじのおはなし」も楽しいし、書き順の「となえかた」も役に立ちそう。
もちろん、総ルビ(ふりがな)つきです。

『白川静博士の漢字の世界へ――小学校学習漢字解説本』(福井県教育委員会編・発行、平凡社発売)は、学力テストで常にトップクラスの福井県内全小学校で、2008年から使われている漢字解説本。
白川博士は福井県出身なのですね。
白川博士については、立命館大学 白川静記念 東洋文字文化研究所サイトの白川静名誉所長の紹介をご覧ください。
また、なぜ福井県がトップクラスなのかは、毎日新聞のイマジン:第4部 はぐくむ 番外編(4) 福井県はなぜ学力、体力テストで常にトップクラスなのかという記事が詳しいです。

で、本の話。

これは面白い本です。
例えば「石」の成り立ちについて、『下村式小学漢字学習辞典 第5版』は、
「がけの下に、いしがころがっている形」
と説明しています。
これが『白川静博士の漢字の世界へ――小学校学習漢字解説本』では、
「厂は山の崖の形、口はさい(字が出ないので、上記白川静名誉所長の紹介を見てください)で、神への祈りの文である祝詞を入れる器の形である。大きな岩石は神の霊の宿る所として、祭りの対象とされ、さいを供えて、神に祈った。石とは祝詞を入れた器を供えて祭られる大きな『いし、いわ』をいう」
と書かれています。
インパクトがありますよね。
それにプラスして、もし山に登ったときなどに、切り立った崖のような巨大な岩の手前にある、まあまあ大きな岩に注連縄が巻かれているのを見かけたことがあれば、漢字がその記憶と結びつきますから、その子は一生、「石」という漢字を忘れることはないでしょう。

この本や白川文字学それ自体に対しては批判も多いです(例えば、大阪大学言語文化研究科・杉村博文教授書評:福井県教育委員会編『白川静博士の漢字の世界へ』)。
ただ、この本を読むと、漢字への興味をかきたてられ、もっと学びたくなる点は、誰にも否定できないんじゃないでしょうか。

言葉の意味については、『下村式 小学国語学習辞典 第2版』をこれから買います!

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Comment

  1. 杉村博文 says:

    『白川静博士の漢字の世界へ』‐「この本を読むと、漢字への興味をかきたてられ、もっと学びたくなる点は、誰にも否定できないんじゃないでしょうか。」
     そうかなあ?なら、「右」と「左」を読み比べてみてください。25頁と30頁です。
     (子供からの質問)センセー、「右」と「左」、二つとも要るん?どっちか一つでいいのんとちがうん?

  2. 渡辺リエラ says:

    杉村先生

    直々のコメント、誠にありがとうございます。大変光栄です。
    「子供からの質問」、もっともです。「右」も「左」も「神様どこにいらっしゃいますか」と呼びかけることならば、2つの字が存在する意味がさっぱりわからない。たしかに、どちらか一方でいいと思えます。

    やっぱり大阪の子供のツッコミは鋭いですね! 昨年、大阪出張のとき、うちの「みーちゃん」を同行させまして、仕事中は保育園に預けたのですが、男の子に「なんでやねん?」とツッコまれたことが非常に印象深かったようで、いまだに「なんでやねん?」が口癖になっています。

    そんな子供レベルの話になって恐縮ですが、20年ほど前、入社2年目の頃、上司(今の文藝春秋社長)に「好きな作家はいないの? 好きな作家の全集を読むといいよ。全集を読むと、その人の思考体系がわかるから」と言われたことがいまだに印象に残っています。
    そのとき上司は、白川静博士の全集を読んだと言っていました(もちろん、他の作家の全集も読んでいるはずですが)。

    実は、そんなことを懐かしく思い出しながら、このエントリを書きました。
    最近耳にする言葉を使うならば、白川文字学は「ポエム」なんだと思います。何かを言っているようで、何も言っていない、でも、なぜか人の心に響く力を持っている。
    先生も、本文でリンクを貼らせていただいた書評の中で「文学的」とおっしゃっていますよね。

    つまり、このエントリには、ポエムから生まれたポエムみたいなところがありましたので、そこに正しくツッコミを入れていただいたことに、心の底から感激しています!

    あとはもう、ポエムから新たなポエムを思いついて、漢字に興味を持つ子がいたらいいな、ポエムに「なんでやねん?」とツッコミを入れながら漢字に興味を持つ子がいたらいいな、そんなふうに考えています。

  3. 杉村博文 says:

    渡辺様

    杉村です。レスが遅れ恐縮です。

    お考え、納得できませんが(小学生向けの「教材」であることが困ります)、納得しましたwww

    白川静博士の全集を読んだ御上司をお持ちとか、その方、すごいですね、わたしは新書の『漢字』でさえ、途中で投げ出しました。

    渡辺さんの母校に大西克也(中国語中国文学)という先生がいらっしゃいます。大西先生のご研究、注目です。
    http://www.l.u-tokyo.ac.jp/teacher/essay/2009/3.html

    ミーちゃんのすこやかなご成長をお祈りします。

  4. 渡辺リエラ says:

    杉村先生

    コメントありがとうございます。
    たしかに「教材」という体裁は誤解のもとですね。
    『白川静さんに学ぶ 漢字絵本【足の巻】』も持っていますが、そういう絵本のようなパッケージのほうが中身にフィットするような気がします。

    教えていただいた大西先生のエッセイも拝読しました。
    「信じるか信じないか」に納得です。聖書に近い、要するに宗教っぽいんですよね。

    思ったのは、杉村先生のページにしても、大西先生のページにしても、目的を持って検索するか、あるいは教えていただくかしないと、たどりつかないのは、とってももったいないということです。
    真摯に研究活動をなさっている学者の方々の考えていることに、一般の人がもっとアクセスしやすくなったらいいな、と思います……というのは別名義の仕事目線ですが。

    何はともあれ、ご訪問とコメント、誠にありがとうございます。
    先生のご研究にも、引き続き注目させていただきますので、どうぞよろしくお願いいたします!

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プロフィール

渡辺リエラ
1969年東京生まれ。1988年東京大学文科1類入学。1992年東京大学法学部卒業。出版社勤務、専業主婦を経て、現在、別名義にて大学講師などとして活動中。2007年7月第1子「みーちゃん」誕生。
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生後106日以降のママ日記は有料とさせていただいております。有料とする理由含め詳細は「当サイトについて」をご覧ください。
取材(「取材してほしい」「取材したい」の両方)、お子さまの教育についての相談(実費申し受けます)などもお気軽にどうぞ。「お問い合わせ」からご連絡をお願いします。

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