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月九「デート~恋とはどんなものかしら~」とブルデューの「ハビトゥス」の関係

東洋経済オンラインの頭のいい子はみな「直感力」を鍛えている 「論理的思考」は最高の武器になる?が、これは炎上狙いですか、話し手は出来上がった原稿をチェックしていますか、と聞きたくなるくらいに論理的でなくて、とってもビックリしました。

まず、「学問の世界における「仮説→検証」という構造も論理の一種でしょう」の真意がよくわかりません。
「たとえば小説を読んで答える問題では、感性でもって、登場人物の心の状態になって読み進めていくと解答はおのずと出てくる」
のはその通りでしょうが、
「実社会では、その論理を積み上げた上の結論が間違っていることが少なくありません」
は、まったく別の話だと思います。
その直後に来る、
「実際は「A=Cであるようだと直感で感じ(仮説)→なぜだろうと疑問が出て→それはA=Bであり、B=Cであろう」ということがわかり、それを逆に組み立てると、「A=B、B=Cであるならば、A=C」となるのです」
は「論理を積み上げた上の結論が間違っている」ことの例示になっていません。
直感が先にあって、それを論理で検証する、という話ですよね。
「仮説→検証」はこれを指していたのだと思われますが、残念ながら、「論理で検証する」と「論理の一種」(矢印部分が論理という意味に読める)は異なります。
その次、
「直感で判断した仮説は感性が生み出したものであり、論理によって生み出されたものではありません」
は理解できますが、そこからどうして、
「この感性抜きには、実は論理は成り立たないのです」
につながるのか、理解に苦しみます。

だんだん言い回しが、2015年1月~3月期、話題の月九ドラマデート~恋とはどんなものかしら~で杏演じる藪下依子(東京大学大学院数理科学研究科で、数理モデルのマクロ経済への応用を研究した後、内閣府経済総合研究所に入所し、現在は横浜研究所に出向中。マクロ経済の動向予想のエキスパートである)に似てきたので、この辺でやめておきます。

ただ、記事の一部には同意します。

「論理だけが頭のよさを促進しているのではない」
「一般的に、感性を高めるためには「多様な体験をさせる」「美しいものに触れる機会を増やす」とよいと言われています」
「教育において最も大切なことは「WHY?」と「HOW?」です」
「テストには「何?」「誰?」「いつ?」「どこ?」「どっち?」が多く出題されるため、知識だけで十分と思いがちです。そう考える人は、学校の勉強なんて社会に出てからまったく役に立たないと言ったりします。しかし、これは誤りです。役に立たない方法で知識を頭にたたき込んでしまったから、そう思ってしまうのです」
「私が指導した生徒の中で非常に“頭のいい子”は、つねに「なぜか?(WHY)」「…(HOW)」という2つの視点が勉強の中に入っていました」

といった部分です。

ただ、「HOW」の意味を「自分はどう思う? どうする?」としているのですが、これは著者独自(あるいは塾業界独自?)の見解のように感じます。
一般的には「HOW」は「どのように?」であり、その理解でよいと思います。

本題は、ここからです。
この記事に対するはてなブックマークのページでcyberglass さんの
「ブルデューでいう「ハビトゥス」。」
というコメントを読んで、自分が日頃、みーちゃんに対して、「なぜか?(WHY)」「どのように?(HOW)」を連発していることと、これからの日本の大学入試を突破する力、そして、非常に困難な時代を生き抜く力のつながりが、鮮明に見えたのです……これでわかった人は、この後は読まなくていいです。

以下、説明していきますね。
私は社会学について不勉強なので、ブルデューの理論については、立命館大学生存学研究センターの950912現代メディア文化論特講14ブルデュー文化的再生産論入門 桜井芳生に依拠しています(めっちゃわかりやすいと思う)。
その「950912現代メディア文化論特講14」によると、「ハビトゥス」とは「慣習の全体」であり、( 氏より) 「育ち」、のことらしいです。

私は、みーちゃんが3歳くらいの頃から、みーちゃんの話に対して、
「それは論理が飛んでるね」
などと突っ込んでいました。
別に、「お母さん、すごいでしょ」とアピールしようとしているわけではないんですよ。
ほとんど無意識と言いますか、頭より先に口が動く感じで言葉が出てしまい、言ってから、
「こんなベビーちゃん相手に、『論理が飛んでる』とか言ってる私って、イタイよな……人間失格。バーイ、太宰治(ここ、「デート~恋とはどんなものかしら~」の長谷川博己の口調でお願いします)」
と自己嫌悪に陥るのです、いつも。

さすがにその後、「論理が飛んでる」は使わないように気をつけていますけど、例えば、みーちゃんが「AだからCだ」という話をすると、
「なんで(WHY)、AだとCになるの? その間に○○みたいなものはないの?」
とBのヒントを出したりします。
そういうのが癖なんです。
めでたく「AだからB、BだからC」と論理がつながると、「それは、どういうふうに、なの?(HOW)」のように話が展開していきます。

これは、みーちゃんの教育のためというより(もちろん、教育に悪くないと思ってはいますが)、私自身がほっとくと気持ち悪いので、自分のためにやっています。
みーちゃんと話しているときだけじゃなくて、ネットの記事を読むとき、仕事の資料を読むときなども(普通にひとと話すときは「スイッチ」を切っていますが)。
言い換えれば、論理的整合性のある生活、これが私の「慣習の全体」、「育ち」なわけです。
四六時中、母親からこれをやられていたら、みーちゃんは、無意識に「なぜか?(WHY)」「どのように?(HOW)」を考える人になるでしょうね。

そういう、無意識に「なぜか?(WHY)」「どのように?(HOW)」を考えるような「ハビトゥス」を身につけた子は、これまでの日本では必ずしも評価されませんでした。
「めんどくさいヤツ」「キモイ」「イタイ」と言われ、世間様から排除されないために「スイッチ」を切ることを覚える必要がありました。
でも、これからはそういう「イタイ」子どもがヒーロー・ヒロインになれるかもしれません!
無意識に「なぜか?(WHY)」「どのように?(HOW)」を考えるような「ハビトゥス」を身につけた子は、今、改革が進みつつある日本の大学入試をらくらくと突破し、そして、やがてやってくるであろう困難な時代において、多くの同胞に職と食を割り当てていくはずだからです。

日本の教育制度は、格差社会の上のほうにいる人に有利なように作り変えられつつあるでも書いたように、この先、大学入試で重視されることになる面接は、今そうであるような、しゃべりの面白さや一発芸を披露する場ではなく、アカデミックな対話をする場となるはずです。
そうした面接や小論文で評価されるには、知識量や暗記力だけではなく、幅広い読書量や豊かな知的会話の量に裏打ちされた、たしかな教養や論理的思考力が必要です。
そして、教養や論理的思考力は、まさにブルデューのいう「ハビトゥス」なんです(教養についてはちゃんと説明していませんが、それはまた別の機会に)。
教養や論理的思考力を身につけた人間を作るには、ワインが熟成する以上の時間、例えば数世代という時間がかかるのです(これ、誰かが言っていた言葉だと思うのですが、誰だったか、どうしても思い出せません。コメントにてご教示いただけましたら幸甚です)。
つまり、ブルデューの「再生産」における「排除と選別」の議論が、フランスだけではなく日本にも妥当する時代がやって来るのです(ここの詳細は「950912現代メディア文化論特講14」をご参照ください)。

「アカデミックな対話」の具体例は東大推薦入試のイメージトレーニングに挙げておきました。
わかりやすいと思うので、ぜひどうぞ。

あっそうだ。
一応、結論が必要ですね。

月九「デート~恋とはどんなものかしら~」とブルデューの「ハビトゥス」は、後者を具体化したものが前者である、という関係にある。

こんな感じでいかがでしょうか?
ドラマを観ていると、藪下依子は突然変異なんかではなく、あの母と父の子だなあ、と思いませんか?

【追記】2015.2.10
わかりにくかったようなので、補足エントリを書きました。
だから「“理系vs.文系”の極端なキャラクター同士」じゃないんですよ

【関連エントリ】
「論理的思考力」とはなんぞや、なんで、そんなものがもてはやされているんだろう、と思う方におすすめのエントリを挙げます。
よろしければ、どうぞ。
良き指導者はどこにいる? 「論理的」「ロジカル」が目印だ!
サッカーで理解しよう、“分解”すればロジカルになれることを
「多面的に評価」って何?
なぜ日本は「共感教育」なのか?

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プロフィール

渡辺リエラ
1969年東京生まれ。1988年東京大学文科1類入学。1992年東京大学法学部卒業。出版社勤務、専業主婦を経て、現在、別名義にて大学講師などとして活動中。2007年7月第1子「みーちゃん」誕生。
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