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東大の推薦入試はローザンヌ国際バレエコンクールだ

1月29日に東京大学サイトに出た平成28年度推薦入試について(予告)「【別紙】平成28年度推薦入試について(予告)」を、遅まきながらじっくり読みました。
結論から言うと、当サイトでお勧めしてきた教育方針でバッチリです!

では具体的に検証していきましょう。
まず、おさらいですが、東京大学は2011年8月に入試企画室を設置し、入試改革をはじめていました。
以来2年半の検討を経て、満を持しての発表なわけです。
この点に触れた東大入試 その1で私は、
「個人的には、一発勝負ではない方向、例えば推薦入試のような方向がいいかなと思います。
じっくりと力を蓄えている子が評価されるような入試です」
と書きましたが、まさにその通りになりそうです。

また、「多面的に評価」って何?に、「ハーバードとか、欧米の大学の入試に近づいていく」、つまり「統一的な学力試験+「多面的に評価」」であり、「多面的に評価」とは「現状の日本の教育システムでは、クラブ活動とかお稽古事、趣味に相当する部分」と書きましたが、そんな感じの入試になりそうです。
「ハーバードなど欧米の大学入試のありかたが参照されること(場合によっては真似されること)」と書きましたが、その通りになりました。

【別紙】を見ましょう。
経済学部がとくに欧米っぽくて、欧米のビジネススクールに行った教授が多いんだろうか、という印象(ホントにそうかどうかは知りません)。
まず経済学部の「求める学生像」は、「いずれかの分野において卓越した能力を有し、その才能を生かして全く新しいビジネスまたは社会の枠組みを創造しようとする高い志を持つ学生」。
推薦要件の第一は「いずれかの分野で高等学校等の生徒として飛びぬけた才能を有すること。(必ずしも学術分野に限らないが、上の「求める学生像」にふさわしい能力であること)」であり、これに「該当すると判断できる客観的根拠を示す書類の提出を求めます」の後の例示がわかりやすい。
引用しますと、

(1)数学オリンピックなどの科学オリンピックで顕著な成績をあげたことを示すもの
(2)英語その他の外国語に関する語学力の試験(TOEFL、英検、IELTS、TestDaF、DALF、HSK など)において高得点を取ったこと示すもの
(3)全国レベルの大会・コンクールでの入賞記録
(4)留学を含む様々な国際的活動で、その内容が第三者によって高く評価されたものについて、その詳細や評価内容を記した文書(新聞記事など)
などです。
※上記(1)~(4)の書類と併せて、本人が執筆した特に優れた論説や論文などを添付することも可能です。

ね、科学オリンピックに大会・コンクール(音楽やスポーツが中心になるんでしょうね)、国際的な活動で新聞に出たこと、とまあ、欧米っぽいでしょ。

理学部の推薦要件もなかなかです。
「自然科学に強い関心を持ち、自然科学の一つもしくは複数の分野において、卓越した能力を有することを示す明らかな実績があること」まではマトモ(失礼! 保守的なオジサマの気持ちを代弁してみました)なんですが、その後の「実績の例」がキテいます。
「科学オリンピック(数学、物理、化学、生物学、地学、情報)、高校生科学技術チャレンジ、日本学生科学賞など、国内外で開催された各種コンテストの上位入賞者」はわかるけど、なんと「商品レベルのソフトウェア開発経験者など」が出た!

さらに「国際活動、社会貢献活動、芸術・文化、スポーツなどでの意欲的な活動やリーダーシップを発揮した実績も評価に加味します」とあります。
ほら、「多面的に評価」って何?で書いた「ヴァイオリンでコンクール入賞、とか、陸上競技の記録を持っているとか」が生きるでしょ。
もちろん、例としてわかりやすいし、練習や実績作りを考えると現実的かなあ、と思ったからそれを例に挙げただけで、ソロや個人競技に限りませんよ。
「実績の例」にも「在任中に顕著な活動を行った生徒会会長、全国大会レベルでの入賞を果たした部やクラブで主導的な役割を果たしたもの」が挙がっています(ただ、これは、在任中の出来事や、部やクラブの面子といった偶然にかなり左右されるでしょうが)。

埼玉県立浦和高校→花園→駒場という未来が見えたで紹介したように、54年ぶり2度目の全国大会出場を決めた埼玉県立浦和高校ラグビー部の主将あたりは、センター試験さえなんとかクリアして(【別紙】によると「概ね8割以上の得点であることを目安」とするらしい)、部活動において「どのような問題設定と解決を行ったか、その活動を通じていかなる自律的学習を行ったか、また将来的にどのように社会に貢献したいと考えているか」(【別紙】より)をきちんと詰めて考えておけば、駒場に行けるんじゃないでしょうか。
いえ、ぜひそういう文武両道な方に、駒場に行ってほしいです、個人的な意見として。

ところで、推薦入試の「推薦」は高校の校長先生がするわけです。
【別紙】によると、校長が推薦できる人数は決まっていて、「男女各1人、合計2人まで」で、しかも男子校や女子校では1人だけ。
とすると、
「規模の大きい東大常連校、例えば開成は不利じゃないか? 偏差値が低くて生徒数が少ない田舎の高校がいいんじゃないか?」
みたいな打算が働きます。
でも、そうじゃないんです。
そういうことを考えている人には、推薦入試に挑戦する資格はない、と私は思います。

推薦入試にふさわしい人は、のんびりした小規模高だろうが、開成だろうが、周りが、
「彼は(彼女は)別格」
と自然に認めるような人です。
イメージとして近いのは、終わったばかりのローザンヌ国際バレエコンクールで、1位に輝いたメンバー
今回1位となった二山治雄くんのコンテンポラリー、スゴイのでご覧ください。
Finals 2014 Prix de Lausanneの1:02:07くらいからです。

ピンと来なかったら、1:11:10くらいからの長身の西洋人による同じ踊りをご覧くださいな。
彼も決勝に残ったわけですから、相当うまいはずですが、それでも大味で、同じ踊りに見えません。
一方、二山くんは動きがしなやか。
軸がしっかりしていて、まったくブレません。
おそらく、イメージ通りに身体を動かせる人なんだと思います。
身体で会話をするレベルの、天性のダンサーとお見受けしました。

そのレベルになると、たぶんバレエ教室では別格の存在だったと思います。
指導する先生たちも、もちろん彼の凄さを理解していますから、大切に、大切に育ててきたんだろうな、と感じました。
2年前に1位だった菅井円加さんや、8589年に1位(ゴールド・メダル)となった熊川哲也氏も、同様に「別格」の踊りをする方々です(You Tubeにいっぱい動画があります)。
そういう、まだバレエ界の中枢に見出されていない“ダイヤモンドの原石”を世界中から集めるために、こうしたコンクールはあるんだろうなあ、と思います。
(熊川氏は受賞時すでに英国ロイヤル・バレエ学校に在籍していたので、「見出されていない」とは言いにくいですが、おそらく、同年に東洋人として初めて英国ロイヤル・バレエ団に入団し、同団史上最年少でソリストに昇格したこととゴールド・メダルは、無関係ではないのだろう、と理解しています。つまり、熊川氏にとってゴールド・メダルは「バレエ界の中枢」にさらに近付くためのパスポートだったのではないか、という理解です。集められた原石がどうコンクールを使うか、という一歩先の話ですね。)

東大の推薦入試はローザンヌ国際バレエコンクールだ、と考えると、わかりやすいです。
東大は、周りが「彼は(彼女は)別格」と自然に認めるような、教師ですら次の教師にバトンタッチするまで、「彼(彼女)の才能を殺さないようにしなければ」とプレッシャーを感じるような、そんな“ダイヤモンドの原石”を日本中から集めようとしているのです。
事務処理能力の高いメンバーを大量に集める通常入試とは、根本的に発想が違うのです。

【別紙】によると、「平成28年度推薦入試において、入学を許可する学生の募集人員は、100人」。
“ダイヤモンドの原石”が100人もいるのかなあ、現在の後期日程に揃えたのかなあ、という印象ですが、「合格者が募集人員に満たない場合には、原則として、残余の募集人員は前期日程試験の募集人員に繰り入れ」るそうです。
おそらく初年度の合格者は、募集人員に満たないだろうなあ。
逆に、基準に満たない人を無理やり合格させないでほしいです。
この制度をちゃんと育ててほしいから。
そして、前に進むためにローザンヌ国際バレエコンクールを使った熊川哲也氏のように(根拠はないんですが、この際、断言させてもらいます!)、前に進むために東大の推薦入試を使うくらいの意識を有するツワモノが、いつの日か現れてほしいものです。

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プロフィール

渡辺リエラ
1969年東京生まれ。1988年東京大学文科1類入学。1992年東京大学法学部卒業。出版社勤務、専業主婦を経て、現在、別名義にて大学講師などとして活動中。2007年7月第1子「みーちゃん」誕生。
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