The New York Timesの翻訳記事のIQはもう古い。グーグルの5つの採用基準 超優良企業の採用トップが欲しがる人材とは(執筆したのは著名なジャーナリストであり『フラット化する世界』の著者でもあるトーマス・フリードマン)によると、グーグルのラズロ・ボック人事部門担当上級副社長は、
「すべての職務について第一に重視するのは、一般的な認識能力。それは知能指数とは違う。学ぶ力だ。臨機応変に処理する能力。バラバラの異質な情報をひとまとめにする能力」
と語ったそうですが、これってピンときますか?
正解がある問題を手際よく解く能力(事務処理能力)の高さを示すのが知能指数であるとすれば、ボックが言っているのは、正解がない問題を手際よく解く能力、と言っていんじゃないかと思います。
例を挙げます。
3年前の3月11日、東日本大震災が発生したとき、私は東京・丸の内にいました。
そこから結局、歩いて帰宅したわけですが、その途中、新宿の伊勢丹裏辺りの横断歩道を押し合いへし合いしながら渡っていたときのことです。
どこかの割烹の経営者でしょうか、恰幅のいい中年男性が、大声で、電話の向こうに、
「明日は三陸から魚は来ないぞ。手配しとけ」
と怒鳴っているのが聞こえました。
その声に、私はハッとしました。
地震発生後、テレビを観られる環境だったので、三陸を巨大な津波が襲ったことは知っていました。
翌日になんて、とてもじゃないが、三陸の漁師さんたちが漁に出られるような状況ではないことも、理解していました。
でも、その瞬間まで、私たち東京の人間が明日は新鮮な魚を食べられないかもしれないこと、にまで思い至っていませんでした。
40ウン年の人生で最大の地震から3時間くらいしか経っていない時点、しかも、あのような衝撃的な映像を観た直後では仕方なかったような気もしますが、まだその時点では、あの震災が“他人事(ひとごと)”だったのだと言わざるをえません。
もちろん、割烹の経営者のように、普段から魚の仕入れに心を砕いている人であれば、あれだけの津波の映像を観た瞬間に、どこか別の仕入れ先を探さなければ、と思いついたことでしょう。
だって、それはいつもの業務の延長線上にありますから。
そうではなくて、魚とごく普通の付き合いしかしていない一消費者であっても、自分のいつもの業務、あるいは日常生活とは直接関係ないように思える出来事を“他人事”とせずに正当な関心をもち(知的好奇心)、自分が経験したことのない事柄についても思いを馳せ(想像力)、そうした出来事や事柄を整理し直し、組み合わせて、納得感のある解を導き出す、いわば「高度な事務処理能力」を持っていれば、割烹の経営者と同じスピード感で、同じ結論に至ったのではないかと思うのですよ。
それがボックの言う「一般的な認識能力」ではないかと考えています。
(元記事では「general cognitive ability」。もっといい訳がありそうな気がしているが、思いつかない。)
グーグルの採用責任者が言ったから言うわけではなく(限定公開のママ日記では同趣旨のことを既に書いていたので)、そういう知能指数や偏差値とは関係ない(まったく関係ないわけじゃないと思うけど)「高度な事務処理能力」を、これからの世の中を生き抜かなければならない若者は磨いていくべきだろう、と改めて感じました。
で、「高度な事務処理能力」を磨く場所ですが、大学である必然性はありません。
同記事(日本語版のほう)によると、ボックは、
「わが社では大卒でない社員の比率がしだいに高くなってきた」
と言ったそうです。
部門によっては14%に達しているとか。
「学校に行かないでも世の中で成功する人たちがいる。非凡な人材だ。彼らを見つけるために、私たちは全力を尽くすべきなのだ」
とも言っています。
スマホは悪か?で、
「今の乳幼児が大学に通う頃には、大学にわざわざ通わなくてもMOOC(公開オンライン講座)で十分、MOOCのほうが効率よく深く学べて、就職にも有利、という世の中になっているかもしれません。
つまり、この10年くらいで、中世から連綿と続く教育制度のパラダイムが、ひょっとしたら変わるかもしれない、ということです」
と書きましたが、既にパラダイムは変わりはじめているのかもしれません。
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