2013年08月

M局長や川崎尚之助のような生き方

このサイトのエントリを1つだけ読んだ人の中にも、たくさん読んでいる人の中にも、おそらく、
「管理人である渡辺リエラは、子どもに『人を蹴落としてでも出世せよ』とか言い聞かせているんだろうな」
と思っておられる人がいるだろうと思います。
「人を蹴落としてでも出世せよ」という価値観を全否定するつもりはないし、(積極的に蹴落としたことは、自分の認識としては、ないけれど)明らかに自分が選ばれたことで他の人が選ばれなかったり、消極的に何かをしないことで自分が選ばれるように仕向けたり、といった経験はあります。

でもね、40代も半ばになると、一流企業に勤めている大学の同期から、
「先が見えちゃったのよ」(女性でもオネエでもない、男性)
みたいな言葉が飛び出したりして、出世競争の切なさ、はかなさを噛みしめたりもするわけです。
そもそも、自分が出世と関係ない生き方をしているわけで、「出世、出世」と言っても説得力はありませんね。

そうは言っても、人生、いろんな局面があると思います。
だから、子どもには、
「人を蹴落としてでも出世しよう、と思ってはいけません」
とは言いません(人を蹴落として出世することに、罪悪感を持たせたくはありません)。
ただ、
「人を蹴落として出世することだけが、人生じゃないよ」
「自分が責任を取るしかないと思ったら、取りな」

ということは伝えたいと思っています。

責任の取り方には具体的なイメージがあります。
出版社に勤めていた頃、社内でときどきすれ違ったM局長です。
その局は、社内では明らかに傍流。
でも、M局長は、ただでさえ背が高いのに、背筋をピンと伸ばし、大股で歩いていました。
しかも、スキンヘッド(いわゆるハゲ)で目つきが鋭いので、子ども(新入社員)ながらに、
「なんで傍流の局にいるんだろう」
と不思議に思っていました。
そのうちに聞こえてきたのが、雑誌の売れ行きが悪かったか何かの責任を、
「俺が取る」
と言って、本流から傍流に移ったという話。
なるほど、と思い、それからは(コワくてなかなか目を見ることはできなかったけど)、心のなかで尊敬していました。

M局長みたいな人は、ある程度のサイズの会社だったら、どの会社にもいると思います(というか、そういう男気のある人、いてほしいです)。
歴史をひもといてみても、有名無名、そういう人はいっぱいいたのだろうと思います。

例えば、今年の大河ドラマ「八重の桜」の主人公・八重の最初の夫である川崎尚之助
この方、これまでは裏切り者扱いだったのが、まさにこの「八重の桜」をきっかけに、むしろ「自分が責任を取るしかないと思ったから、取った」タイプの人であったことが明らかになったのです。
名誉回復です。
ほんと、事実が明らかになって良かったと思います。
詳しくは、『川崎尚之助と八重』をご覧くださいませ。

史実を発掘した著者あさくらゆうさんは、同志社大学サイトの「新島八重と同志社」「繋ぐ想い」第16回 新島八重と川崎尚之助 ~会津に尽くした生涯~の中で「藩に迷惑をかけないため、その罪を一身に背負う決心をした」と美しく表現していますが、著書に描かれた史実を見ると、そんなキレイ事じゃ済まない感じです。
だって、同じ出石藩出身で、同じ時期に同じような塾で学んでいた加藤弘之は、明治期に入って帝大の初代学長にまで出世(弘之のほうが尚之助より身分が良かったのはたしかですが、明治期のお偉いさんには元・下級藩士も多い)。
他方、尚之助は結局のところ、困窮から満足な食事もとれず、明治8年、慢性肺炎のため39歳で亡くなっているのですから。
『川崎尚之助と八重』には晩年の尚之助の狂歌が紹介されています。
「今日はまだかてのくばりはなかりけり
 貧すりゃドンの音はすれども」
西洋砲術を学び、教えていたほどの人が、こんな思いで大砲の音を聞くなんて、想像するだけで切ないですよね。

なお、「八重の桜」では史実を離れ、八重との関係その他、現代の目で見て好ましい展開になっていますが、尚之助の困窮・死因を改変することまではできないので、却って、
「山本覚馬はなぜ、尚之助に手を差し伸べない?」
「山川浩はなぜ、人を介してでも尚之助を援助しない?」
みたいな疑問が湧き上がり、とっても切なくなりました(まったくの蛇足ですが、どうしても言いたかったので、すみません。山本覚馬や山川浩が人を蹴落として出世した、と言いたいわけではありません)。

とは言え、あの頃、尚之助みたいな人生を送った人はたくさんいたんだろうと思います。
『日本のうた300、やすらぎの世界』(米良美一編、講談社)という本に、三枝成彰さんが「荒城の月」について寄稿していました。
あの憂いに満ちたメロディーを作曲したのは滝廉太郎ですが、三枝氏によると、「荒城の月」は廉太郎が父・吉弘を歌った曲だという説があるそうです。
吉弘は、佐賀の乱で大久保利通の命を救った縁で大久保に認められ、内務省に勤めるも、大久保が暗殺されたため失意のうちに故郷に帰り、一地方官として一生を送った由。
三枝氏は、「荒城の月」について、
「江戸から明治という、日本史上でも最も苛烈な時代の犠牲となった多くの人々への鎮魂歌では、とも思うのです」
と記しています。
私は「荒城の月」のメロディーを聞くと、切なくて切なくてたまらなくなるのですが、それは、尚之助や吉弘のような人たちの思いを感じとるから、なのかもしれません。

そんなことを考えていると、とてもじゃないが、子どもに、
「人を蹴落としてでも出世しよう、と思ってはいけません」
「自分から進んで責任を取りなさい」
なんて、辛くて言えません。
ですが、せめて、
「人を蹴落として出世することだけが、人生じゃないよ」
「自分が責任を取るしかないと思ったら、取りな」
くらいは言って、M局長や川崎尚之助のような生き方を、肯定的に伝えたいと考えています。

コミュニケーション力(論理的表現力)をどう鍛えるか

なぜ日本人は英語を学ぶべきなのかで、「知」や「意」にかかわる予定のある日本人は、論理性を身につけるために英語をマスターしておくべきだ、と述べました。
英語を使ってコミュニケーションの力を鍛えるべきだ、ということです。
日本語を使ってコミュニケーションの力を鍛えるのもアリだと思うのですが、どちらの方向で行くかは、どちらのタイプの指導者との出会いがあるか次第だと考えています。

そこで、現在年長組のみーちゃんに、どんな指導者を紹介しようと考えているか、ですが、私は、みーちゃんが小学校に上がったら、カーン・アカデミーを見せるつもりでいます。
カーン・アカデミーをはじめとするMOOCについては、いろんなところで取り上げられていますが、例えば、@シリコンバレーJournalの公開オンライン講座(MOOC)本格普及で米トップ大学の講義もコモディティー化するはわかりやすい記事だと思います。

上記記事にも書かれていますが、カーン・アカデミーは、ヘッジファンド・マネージャーだったサル・カーンが「インターネット経由で姪の勉強の手助けをしたことがきっかけとなって」設立されました。
そんなプライベートな空気感もまた、カーン・アカデミーをみーちゃんに見せたい理由の1つです。
例えば、こちらは、カーン・アカデミーの中で算数の入り口にあたる動画ですが、どうです、近所の勉強の得意な外国人のお兄さんに教えてもらっている感覚じゃないでしょうか。
これなら、楽しくお勉強ができそうな気がしませんか――とまあ、強引にもっていこうとしてますが、有り体に言えば、英語とコミュニケーション力、算数の3つを同時に学ぶ、一石三鳥を狙っているわけです。
ずいぶん欲張りだと呆れられてしまうかもしれませんが、EBOOK2.0 Magazineが言うように、「このままではデジタル・ツールを有効に利用した米国と、それに振り回される日本の差はますます拡大していく」(「米国のライティング教育はデジタルで進化する」)かもしれません。
とすると、貪欲に学ぶくらいでちょうどいいんじゃないでしょうか。

それと同時に、三森ゆりかさんの『子どものための論理トレーニング・プリント』も、実はもう、みーちゃんの机(ちゃぶ台)の上にさりげなく置いています。
さりげなさ過ぎて、完全に無視されていますが……置き方は今後の課題としましょう(笑)。

同書は日本語で論理的表現力を鍛えるドリル。
つまり、私が描いているのは、英語と日本語両建てで鍛える計画です。
なお、同書の「解答編」には、何をどう鍛えようとしているのか、つまり設問の意図や意味が説明されていますが、いきなりこれだけで100%理解できる人はあまりいないと思います。
なので、まず同じ著者による『外国語を身につけるための日本語レッスン』辺りを読むことをお勧めします。

プロフィール

渡辺リエラ
1969年東京生まれ。1988年東京大学文科1類入学。1992年東京大学法学部卒業。出版社勤務、専業主婦を経て、現在、別名義にて大学講師などとして活動中。2007年7月第1子「みーちゃん」誕生。
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