2007年03月

妊娠判明(5週0日)

 近くの病院で断られたうえに、区内に個人の病院はないと言われ、難民になった気分でしたが、結局、バスで20分くらい(同じ区の中)の、お産で定評のある中規模の総合病院に行き、妊娠が確定しました。

「妊娠です。子宮外妊娠でもありません」
 そう言われてほっとしたのも束の間、
「35歳以上の方には説明しなければならないことになっていまして……」
と見せられた紙に、
「羊水検査」の文字が。

 羊水検査とは、子宮に針を刺して羊水を取り出し、その中に浮かんでいる胎児の細胞を調べる検査です。
 これによって、胎児の染色体異常や先天代謝異常の有無がわかります。
 なぜ「35歳以上の方には説明しなければならない」のか。
 それは、35歳以上のいわゆる高齢出産の場合、ダウン症のような染色体異常児が生まれる可能性が高いとされているからです。

 その程度の知識はあったけれど、いざ「羊水検査」の文字を見ると、
〈私って、高齢出産なんだなあ〉
〈障害児かもしれないんだなあ〉
 現実に直面させられました。

 この日は説明だけ。
「ご家族とよく話し合ってください」
とのことでした。

 最後に血液検査です。
 採血をするのですが、私、この採血が大の苦手。
 血管が細いので、なかなか針が入らないのです。
「一番細いのでお願いします」
 以前教えられたとおりに言いましたが、看護師さんが持っているのは普通の針のような気がします。
 嫌な予感はしましたが、
〈まあ、プロの判断を信じよう〉
と、黙って腕を差し出しました。

 案の定、針は血管に入りません。
 若い看護師さんの表情が変わりました。
 事情を察したもう少し年上の看護師さんが出てきて、
「ごめんなさい、もう1回……」
と言われましたが、病院に着いてからもう2時間以上経っています。
 おなかペコペコだし、妊娠したからか、からだもなんとなくだるいです。
「すみません、休憩させてください」
 待合室で2、3分休んでから採血室へ戻りました。

 すると、待ち構えていたのはさらに年上の、いかにもベテランという感じの看護師さん。
〈今度は大丈夫かも〉
 安心した私が甘かった。
 再び失敗。

 またタイムを宣言して待合室へ。
 外来診療の時間が終わったのでしょうか、誰もいません。
 ひとけのない待合室を、動物園の檻の中の虎のように、ぐるぐると歩き回ります。

〈早く帰って仕事しなきゃいけないのに、こんなところで時間をとられるなんて、ついてない〉
〈こんなにおなかがすいている状態で血を採られたら、倒れちゃうよ〉
〈ただでさえ妊娠して気持ち悪いのに、血を採られるなんて、サイアク〉
〈この病院、採血ヘタ!〉
 頭の中で毒づきます。

〈これからもっと、気持ちが悪くなったりするんだろうなあ〉
〈高齢出産だと、体力的にきついんだろうなあ〉
〈もし障害があったとして、障害児を生み育てる覚悟が、私にはあるんだろうか〉
 妊娠・出産のシビアな部分ばかり頭に浮かんできます。

〈会社を辞めて独立したはいいけど、まだ軌道に乗っていない。そんなときに妊娠・出産だなんて、間の悪い……〉
〈何か月もかけて練ってきた計画が台無しだ〉
〈私、これからどうなるの?〉
 妊娠によって、それまでの生活をそのまま続けることができないのは明らかです。
 でも、だからといって、どの程度の変更が必要となるのか見当がつかず、とても不安です。

 気がついたら涙がぼろぼろこぼれていました。
 遠くから、松葉杖をついた男の人が、心配そうにこちらを眺めています。

 念のため言っておきますが、妊娠を望まなかったわけではありません。
 それどころか、数年がかりでやっとこぎつけた妊娠です。
 だいたい、子どもがほしいから再婚したようなものですし。

 もちろん、別に再婚相手は誰でもよかったわけじゃないんですよ。
〈この人と家族になって、力をあわせて生きていきたい〉
と思えたひとです。

 さらに、私が会社を辞めた理由のひとつは、妊娠準備です。
 からだを壊して、このままじゃ出産どころか妊娠もできない、と痛感したんです。
 実際、会社を辞めてから、生理がおそろしいくらいに規則的に来るようになりましたし。
 まあ、これは同時期に飲みはじめた養命酒のおかげかもしれませんけど。

 それほど、子どもがほしかったんです。
 それなのに、いざ妊娠が判明したとたん、不安で涙が止まらない……。
 妊娠するもしないも、大きな出来事なんです、当事者にとっては。

 なお、3回目で無事採血できました。

 それから、羊水検査はしないことに決めました。
 帰って夫の意見を聞いたら、
「9万円もかかるの? 高い」
 即決でした(笑)。
 それは冗談として、この日、私たちは、障害があっても子どもを生み育てる覚悟をしたんだと思います。

出産難民(4週6日)

 この日、妊娠検査薬で陽性反応が出ました。
〈明日、病院に行こう〉
と考えたものの、問題はどの病院に行くか、です。
 私の住んでいる地域には、大学病院や総合病院のような大きな病院がたくさんあります。
 でも、大学病院や総合病院には、設備は充実しているけれど、待ち時間が長い、というイメージがありました。
 これに対して、個人病院(医院)は、あまり待たずに、しかも親身になって診てもらえるようなイメージ。
〈まだ妊娠してるかどうかもわからないし、仕事もあるから、時間をとられるのはイヤだな〉
 そう思って、タウンページで近くの個人病院を探し、電話しました。

     ところが、です。
    「妊娠したようなんですが、明日の診療時間は何時からでしょうか?」
     そう尋ねたとたん、先方の声のトーンが変わり、
    「うちは、お産は扱ってないんですよ」
     めんどくさそうに言われました。
    「まだ妊娠判定の段階ですから、お願いできませんか?」
    「妊娠の判定は難なくできるんですけどね、出産をする病院でもまた検査、となると、二度手間になって、申し訳ないから、うちではやらないことにしてるんです。そういうことで……」
     こちらの手間を気づかっているような言い方ですが、声は一刻も早く電話を切りたそう。
    「すみません、この辺りでお産を扱っている個人病院をご存じだったら、教えていただけませんか?」
    「区内では、もういらっしゃらないんじゃないかしらねえ……」
     とどめを刺されました。

     幸い、私が住んでいるのは東京都23区内。しかも病院密集地区。
     徒歩圏内に、お産を取り扱う大病院がいくつもあります。
     でも、大病院は、基本的にはリスクのある妊婦さんが行くべきところ、だと思います。
     だから、とくに病歴もない人間が、ご近所、というだけの理由で行くのは、申し訳ない気がしました。
     でも、区内に個人の病院はないらしい……。
     いったい、私はどこに行けばいいの?
     なんだか、難民になった気分でした。
     何でもそろうと言われる便利な東京の、しかもド真ん中で、ヘンな話ですね。

    プロフィール

    渡辺リエラ
    1969年東京生まれ。1988年東京大学文科1類入学。1992年東京大学法学部卒業。出版社勤務、専業主婦を経て、現在、別名義にて大学講師などとして活動中。2007年7月第1子「みーちゃん」誕生。
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