妊娠5か月といえば、戌の日。
腹帯が必要だと言われても、まだピンときませんが、かの有名な水天宮で安産のお祓(はら)いを受けてみたいなあ、などとぼんやり考えていました。
ところが、この日、突然義母から、
「届け物があるから行くわね」
と電話がありました。
届け物とは、なんと、水天宮御守と小布守。
水天宮御守の中を開けると、5つの文字が書かれた紙が入っています。
この文字は神呪(しんじゅ)文字というそうですが、文字というより何かのマークのように見えます。
特別の水で墨をすっているためか、この文字を水と一緒に飲むとありがたいご利益を得られるんだそうです。
たとえば、妊娠中、体調が悪いときに飲むと、からだの具合が良くなったり、陣痛がはじまってから飲むと、お産が楽になったり……。
〈それはありがたいから、ぜひ試してみよう〉
と思っていたのに、忘れてしまいました。
残念!
小布守は、小さな鈴乃緒(すずのお。社殿の前に神様を呼ぶための鈴がありますが、この鈴を鳴らす、さらしの鈴紐のことです)の切れ地です。
これを自分の腹帯に縫い付けるんだそうです。
見た目は、さらしの切れっ端に大きなはんこが押してあるだけで、なんとも心細いのですが、戌の日に安産のご祈祷を済ませているので、ご利益が得られるそうです。
水天宮御守と小布守を、
「あなた、こういうものは好きじゃないかもしれないけれど……」
と言いながら、義母は差し出しました。
〈お守りに好きも嫌いもあるもんか〉
と思われるかもしれません。
義母は、クリスチャンの私を気遣ってくれたんです。
でも、実は私は神社とかお守りとか、日本人っぽいものが大好き。
だから、キリスト教徒のくせに、水天宮で安産のお祓(はら)いを受けてみたいなあ、などと思うわけです。
さて、義母は私の名前でお祓(はら)いまで受けてくれていました。
「あなた、いやかもしれないけれど……」
そこまで気を遣ってもらうと、
〈安産のお祓いを受けに行こうと思っていたのに……〉
とは口が裂けても言えません。
しかも、私の名前でお祓いをしてもらっているので、私が1人でお祓いを受けに行く、ということもできません。
ちょっと残念だったけど、ありがたい気持ちのほうが上回りました。