春の匂いを感じたくて、梅を見に出かけました。
行く途中の、駅ビルのエレベーターでのこと。
満員に近い状態で、隣りの人とのすき間がないくらい。
身動きできずじっと立っていると、突然、手にやわらかい感触を感じました。
〈ん?〉
ちょっと身体をよじって見ると、4歳くらいの男の子が私の手をにぎっていました。
隣りのお母さんらしき人も気づいたらしく、小声で、
「違うわよ、違うわよ」
と繰り返していますが、坊やは知らん顔。
かあさまは、
〈かまいませんよ〉
というつもりで、軽く目礼しました。
坊やは次の階で、するりと手を離してエレベーターから降りていきましたが、残されたこっちの頭の中は、はてなマークがいっぱいです。
小さな子どもに縁のない生活を送ってきましたし、デパートのエレベーターとかで、たまに子どもと目が合ってニッコリほほえんでも無視され続けてきたのに、どうした風の吹き回しでしょう?
子どもは妊婦に特別の親しみを感じるものなのでしょうか?
さらに驚いたのは、梅を見てから、休憩所でお茶を飲んでいたときです。
ママと一緒に席を立った3歳くらいの男の子が戻ってきて、かあさまの周りを、キャッキャと笑い声をあげながら、グルグルまわるんです。
まるで誰かと遊んでいるかのよう。
〈誰かって、まさか、みーちゃんたーちゃん?〉
坊やには、かあさまのおなかのなかのおチビさんが見えているのでしょうか?
こんなこともありました。
ある日、バス停で待っていると、後ろの後ろに並んでいる4歳くらいの女の子が、かあさまのおなかの前で仁王立ちしてるんです。
「順番に並んでいるのよ」
と、お母さんに何度連れ戻されても、またちょこちょこと、かあさまのおなかの前に戻ってきました。
子どもは妊婦が好きなのでしょうか?
自分がおなかのなかにいたときのことでも思い出しているのでしょうか?
それとも、おなかのなかのおチビさんとお話ししているのでしょうか?
そういえば、昔の人は、7歳までは、子どもは人間ではなくて神様からの預かりものだ、と考えていたらしいです。
だからこそ、
〈やっと人間世界に定着した〉
と、「七」五三をお祝いしたわけで……。
ひょっとして、7歳未満の子どもには、人間(大人)には見えないものが見えるのでしょうか……?