とうさまが、
「会社辞めたい」
とつぶやきました。
本気で言っていると、かあさまはわかっています。
でも、かあさまはフリーになったばかりで、収入は安定していません。
それどころか、つわりもあるし、出産まで仕事を休みたいくらいです。
なのに、とうさまが会社を辞めてしまったら……。
すぐに希望通りの転職ができるとはかぎりません(実際、できなかった)。
貯金でつなぐとしても、出産費用、みーちゃんたーちゃんのための買い物など、出費がかさみます。
子どもが生まれるとなると、予想外の出費もあるかもしれません(実際、あった)。
かあさまは、
〈せめて、みーちゃんたーちゃんが出てくるまで、待てよなー〉
と思いましたが、いきなり言うと、角が立ちそうです。
ちょうど「拝啓、父上様」というタイトルのテレビドラマを観ていたので、それにひっかけて、
「拝啓、みーちゃんたーちゃん。とうさまが壊れました。敬具。かあさまより」
と、手紙を書くしぐさをしながら言いました。
思いつめた表情の敵(とうさま)も、プッと吹き出しました。
そこをねらって、
「辞めるな、とは言わないよ。でも、せめて、みーちゃんたーちゃんが出てくるまでは、待って」
と釘をさしました。
20代のころの私が、もし妊娠中にそんなことを言われたら、不安でたまらなくなったと思います。
思い悩んで、切迫流産、なんてことになっていたかもしれません。
事態の深刻さは同じでも、不安な気持ちとうまく付き合えるのは、年の功かな。
これも、“高齢”出産のメリットと言えそうです。